今回の舞台は、戦国時代の天下の三武将のDNAが流れる尾張の国、愛知県・名古屋市。大手自動車メーカーなど製造業が活発な印象もありますが、実は今、名古屋では起業家教育が熱いんです!
子どもたちが生きるこれからの時代は、今ある仕事の約47%がAIに代替されると言われています。つまり、今とは全く異なる仕事や職種、働き方が生まれる時代です。
一方で、子どもたちのキャリアの選択肢は最大化されているでしょうか?
子どもたちの新たなチャレンジを、自信を持って応援できているでしょうか?
家庭や学校、暮らしのあらゆる点で、「起業」について触れることで、子どもたちの未来の選択肢を一つでも多く増やす準備をしていくことが、今必要です。今回は、こどもたちの選択肢を作るために、行政や民間が一体となっている名古屋から3人のゲストをお呼びしました。
▼スペシャルゲスト
【稲垣 尚起 氏】
名古屋市経済局イノベーション推進部スタートアップ支援室 主査
2015年から名古屋市の産業振興と経済発展を目的とした企業誘致を担当。特に、ICT・クリエイティブ・デジタルコンテンツ関連企業の集積に注力。企業誘致に取り組む中で、都市に活力を生むだめには、クリエイティビティと挑戦する機運が必要と感じ、2018年よりイノベーター育成・ビジネス創出プログラム「NAGOYA BOOST 10000」を企画、運営。2019年にデザイン振興担当、2020年からはスタートアップ推進を担当。スタートアップの創出、エコシステム形成に奔走中。
【藤田 豪 氏】
株式会社MTG Ventures 代表取締役
明治大学経済学部卒。1997年、日本合同ファイナンス株式会社(現:株式会社ジャフコ)入社。2005年より中部支社投資部に異動し、2015年支社長へ就任。22年にわたり、スタートアップからレーターステージまでの投資、投資先各社での取締役就任、ファンドの募集など手掛け、自動運転、AI、保育IoTといった分野の企業への投資を行なってきた。2018年、株式会社MTG Ventures代表取締役就任(現任)。MTGグループのコーポレートベンチャーキャピタルとして、5000人以上の経営者との出会いによって培われた視点をベースに、BEAUTY-TECH、WELLNESS-TECH、FOOD-TECH、SPORTS TECHのスタートアップへの投資を行っている。
【河合 将樹 氏】
株式会社UNERI 代表取締役
1995年愛知県生まれ。自身の経験から挑戦する人が賞賛される文化をつくりたいと考え、NPO法人ETIC.が主催する未来の起業家・イノベーターのための学校「MAKERS UNIVERSITY」の運営に参画。2020年2月に「UNERI500」という東海最大規模の起業系カンファレンスを企画し累計参加者は500人を超える。5月に株式会社UNERI代表取締役として就任。現在は名古屋市スタートアップ支援室主催の「名古屋市共創促進コーディネーター」として愛知県中のインキュベーション施設に訪問し、名古屋の起業家エコシステムを耕すために「NAGOYA INNOVATION GATEWAY運営事務局」を務めている。
▼当日プログラム
・ゲストプレゼン
・パネルディスカッション
・グループセッション&ワーク&全体シェア
VCが始める起業家教育
藤田さん:株式会社MTG Ventures ではスタートアップに対するCVC事業をBearuty-tech、Wellness-tech、Sports tech、Food techの4ジャンルに投資しています。
例えば、今までに投資した会社でいうと、美顔器ローラのRefaや腹筋を鍛えるSIXPADがあります。
社長の松下は、小学校三年生の時に、自分は拾われたこどもだと教えられ、松下家に恩返しをせねばならんと小学校五年生で企業を志した人物です。中学に上がり、先生に「日本で一番の会社はどこですか?」と尋ねたら「日本には世界的に有名なトヨタがある」と言われ、名古屋にあるデンソーに入ったことが、愛知県とのつながりが始まりました。
わたし藤田は秋田の湯田の生まれで、東京に来て19年です。名古屋でこれほど長くスタートアップを応援しているのは僕ぐらいしかないということで、名古屋地域における、ベンチャーエコシステムづくりをライフワークにしています。今力を入れているのは、中日新聞さんと10年計画をたてたこどもの起業家教育、SDGs 2030ジュニアキャンププロジェクトです。
小学校6年生50人と共に志摩市や鳥羽市で学びのキャンプを通して、起業家マインドを育てる取り組みをしていて、投資家の視点から起業家に必要なことなどを話させていただいています。
街の稼ぐ力を引き出す
稲垣さん:名古屋市の市民経済局にある次世代産業振興課に所属しています。産業振興課の仕事は、「街の稼ぐ力」を高めることです。
今まで、名古屋市は自動車をはじめとしたものづくり産業をやってきましたが、これからさらにスタートアップの方と共に「街の稼ぐ力」からを高めていこうと考えています。そこでまず、イノベーションという単語について僕の考えを共有させてください。
みなさんがイノベーションという言葉を思いおこす時、iPhoneのようなものものを思い浮かべると思います。けれど、イノベーションはスティーブ・ジョブズがたった1人が起こした訳ではありません。一緒に新しいことに取り組もうとする人たちがいてこそ生まれるものです。そのような「起業家精神を持った人を街全体でいかに作るか!」が課題であり挑戦になっています。
その挑戦を実現するために1つの政策として、交流拠点を作ったり、小中学生向けにカードゲームを使った起業家育成ワークショップを開催したり精力的に活動しています。
起業家を増やすUNERIをつくる
河合さん:僕は生粋の名古屋人です。もっとチャレンジする人が増えてほしい、賞賛される人を増やしたい中学生の時思い、今、官民連携しながら企業系のイベントを開催するUNERIという会社をやっています。UNERIのテーマは事業をつくれる人を育てること、名古屋に起業家精神をインストールする旗振り役です。
今、一番力を入れているのはインキュベーション事業です。実は愛知県出身者の経営者のかたはたくさんいらっしゃって、メルカリ山田さんやユーザベースやニューズピックスの梅田さん、VOYAGE GROUP宇佐美さんなど燦々たるメンバーなんです。そこで参加者もメンターも愛知県在住者ないしは愛知県にゆかりのあるひとで構成してたインキュベーションプログラムを愛知県出身の起業家が経営する会社や地銀がスポンサーし、ふるさと納税の仕組みを応用するような、学校をつくっています。
コーディネーター事業では、名古屋にある30箇所あるインキュベーション施設の横の連携を行っています。具体的には、それぞレノインキュベーション施設の特徴から、そのスタートアップのニーズや特性とマッチする場所を紹介することでさらなる成長の後押しをしています。また、インキュベーション同士を繋げるようなコミュニティーマネージャーを重要視して、コミュニティーマネージャーから最先端のスタートアップ知識を得たり、お互いの良いところを引き出しながら面でスタートアップを支援する仕組みを作っています。
最後にもうひとつ「スタートアップではない起業家:ZEBRAを応援する」というのに力を入れています。ZEBRA(ゼブラ企業)とはUNICORN(ユニコーン企業)との対比から生まれた言葉です。ZEBRAは上場や急成長を望まず、サスティナブルで相互利益が生まれるような起業のことです。近年、その動きは世界的に出てきていますが、ZEBRAは上場を目的としていないので、構造的にお金を投資しにくくなっています。ZEBRAのような新しい選択肢や市場を広げるサポートをしたいと考えています。
ーパネルディスカッション
Q. 取り組みを通して目指しているゴールは何ですか?
稲垣さん:産業振興課の観点から言えば、企業する人が増えることが重要だと考えています。けれど、社会的に見るとそれ自体はゴールではないと感じています。起業家だけではなく、会社に所属している人、個人、全ての人が起業家精神を持って挑戦できる、そんな環境を作ること、失敗することを許容できる環境/風土を名古屋市で醸成したいと思っています。
河合さん:起業において「失敗するかもしれない!」というのは、間違いないです。けれど、それを讃えるカルチャーが大切だと思います。僕は、チャレンジの最終点は起業かなと思っています。若い時、特に家族がいないときは失うものが特にないいので、すぐに企業してほしいと思う「企業過激派」です!
藤田さん:VCから見えれば、起業家が増えれば投資対象が増えるという単純なところでもあるけれど、個人的には名古屋のこども達の働く選択肢を増やすことをしたいと考えています。最終的に、自治体でも、大企業でも、起業家でもいいんです。ただ、起業家への道が少ないので、その道を増やしたいと感じています。
特に今は、国のお金をコロナ対策で使っています。その使ったお金は、誰が返すのか作るのかといえば、今のこどもたちです。そう考えると、自分たちは「これなら成功できる!素晴らしい会社になる!」という答えを持っていないけれど、それを見つけるため、つくるためのサポートが必要だと考えています。
Q. 起業家教育において大切なことは?
稲垣さん:「なぜやりたいの?」を見つめる教育は必要だと思います。単純に企業した、というのでも良いですが、どう社会に役立っていきたいのかが見つけられる教育が必要だと思います。
河合さん:今までたくさん考えた中で大切なのは、起業家教育においては「教えるものはない、仲間と先輩が入ればいい」というのが結論です。
起業家って再現性があるものではないと思うんです。その人によって成功パターンが違うので、「これが絶対」というものがありません。その時に、何が必要かと考えると、成功するまでやることなんです。その際に必要になってくるのが、切磋琢磨する仲間やライバル、そして道を間違えた時に半歩先を行く先輩起業家から「こっちに言って見れば?」というアドバイスだと思います。
藤田さん:スタートアップに投資する時って、色々な指標があるんですが、ぐるっと回って、起業家のマインドを見ます。原点に何があるのか、本人の意思である根幹があやふやだと、何か危機がきた時に、折れてしまうんです。「これを目指すんだ〜!」という、仲間を集める前のマインドセットと、自分で考えて自分でアクションしていくというのが重要だと感じます。
【アンケート1】
ピョートル:これをみてどう思いますか?
藤田さん:目指している姿ですね。少しずつ増えてきた感覚はありますが、これはなんだか模範解答のような感じですね(笑)
稲垣さん:僕、もう仕事やめないとかな…「解散!」という感じです(笑)
河合さん:今から就職活動始めなくちゃと思いました(笑)
【アンケート2】
ピョートル:こどもにはお医者さんになってほしいとかトヨタに行ってほしいという声も聞こえますが、どう思いますか?
藤田さん:こうなってないから、小6のこどもたちを通して親に伝えようと思っています。今の親たちも自分たちが育ってきたものではダメだなと感じていると思うけれど、子供達を応援したいと思いつつも、何かしらのサポートしたいので「やっぱりOOの資格をとったら?」とやりたくなってしまうのが親心の難しいところですね。
ピョートル:藤田さんは親からこうなってほしいと言われたことありましたか?
藤田さん:ないですね。僕は最初に就職したのがジャスコという投資会社だったのですが、小売のジャスコと勘違いしていて「野菜売れたらいいなー」って言わわれました。
ピョートル:稲垣さんは、親御さんに公務員になってほしいと言われたんですか?
稲垣さん:言われていないですね。
でも、安定してほしいという思いはあったと思います。
ピョートルさん:河合さんは「あちこち行って自分の会社作って何やっているの?」って言われないですか?
河合さん:僕、大学7年行っているですよ。不真面目なやつだって言われて、頼むから就職してくれと言われました(笑)
ピョートル:ちょっとうちの社員にも聞いてみましょう、たまちゃんはプロノイアに就職する時どうでしたか?
たま:転職した時には30後半だったんで、自分でどうにかしなさいという感じでした。わたしが就職する際は親が銀行員だったこともあり、銀行員だと思われていて、必死に抵抗して、NECに入りました。そこから、自分の人生は自分で選択する、というのが始まったように思います。
ピョートル:ぽむはどうですか?
ぽむ:母は「他のお母さんたちはみんなリクルート(会社)がいいって言ってるからリクルートにしなさい」の一点張りでした(笑)
ワークタイム
今回は、7つの質問について、個人で回答してもらい、そのあとグループ内でシェアする形をとりました。皆さんも、ご自身で答えてみてください。
ここからは、グループ参加者さんのご感想をシェアさせていただきます。
・ライリーさん
わたしたちのチームでは「こどもから何を得たい=何も得たいものはない」という回答をしたのに「何を持っていい教育をしたと思う?」という質問に対してはこどもに対し手の要求が出てきて、自分の中に矛盾があったのに気づいたという声がたくさんでました。
個人的には自分は教育業界に興味があるんですが、「なぜ教育を選んでいるのか」って言う質問には「小中高で、寄り添ってくれる人が欲しかったから」と言うのがスーッと出てきて、「あぁ、そうなんだ」ってシンプルに思えたことが大きな気づきでした。
・理学療法士のかねさん
理学療法を35年間やってき担ですが、今、SDGsに貢献したくてコロナで辛い状況の子供達がたくさんいて、その子たちをサポートするための包括地域ケアをやっています。世の中には、親に置き去りにされて貧困に陥っているこどもや、地域で取り残されている人がたくさんいます。こどもたちがどうなっていくのがすごく心配です。
・親子参加のTさん
娘さん:オーストラリアと日本の教育はかなり違っています。国算理社をまんべんなく学ぶけれど、「どういうキャリアを目指したいのか」を基準にして授業が成り立っていてすごく楽しいです。
お母さん:「去年から今年の育児がどう繋がった?」という質問がすごく刺さりました。こどもが、色々あって、やっと自分らしくいられる学校に転向して、すごく生き生きしています。日本とは全く違う環境で、こどもが起業というの希望を普通に言い始めているのに驚いています。
大学生のかわさん:
わたしたちのグループは教育好きのメンバーが集まっていました。そこででた話題は、同じ課題に興味がある人が集まるコミュニティはどうしても同質化してしまうという課題があるということです。そう考えたときに、今後教育を考えていく上では、逆に教育アンチみたいな人を巻き込みながら多様性のあるコミュニティを作って行きたい、というのを感じました。