WHYから始める教育イノベーション!
100年かけて作られてきた成功モデルとして深く根付いている日本の義務教育。高校でも多くの学校が「普通科」という科目で一般教養を教え、校則というルールで画一的に管理していることがほとんです。
それにも関わらず、いざ社会にでると「ユニークな個性」を求める日本の社会は教育との間に大きな矛盾があります。
今回は、少子高齢化の課題先進地域と言われる島根にて、今を生きるこども達に、学ぶことの豊かさ/選択肢を増やそうと努力をしている3人のスペシャルゲストと、学生起業家の仁禮彩香さんに加え、仁禮さんの起業家を育成するオンラインプログラムであるTimeLeap Academyに島根から参加をしている藍さんと共にイベントを開催しました。
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▼プログラム
①登壇者自己紹介
②パネルディスカッション
・教育改革のターゲットは誰?個人エリート教育 or 公教育?
・教育改革は制度から変える?個人から変える?
・みなさんが怒りを覚えるシーンは?
③グループセッション&ワーク&全体シェア
・あなたのVISIONとWHY/HOW/WHATをつなげよう!
【大野 佳祐さん】
1979年東京生まれ。島根県立隠岐島前高校の学校経営補佐官。
サッカーが大好き。学生時代にバックパックで世界各国を巡り2012年にバングラデシュに学校兼診療所を創設。2014年に海士町に移住し、隠岐島前高校魅力化プロジェクトに参画。
【鈴木 隆太さん】
1988年東京都出身。認定特定非営利活動法人カタリバにて活動中。
大学卒業後は、株式会社LIFULLにて不動産情報サイト「LIFULL HOME’S」の営業職に従事。2015年2月に「教育を通じて地域づくりの仕事をしたい」という想いから、認定NPO法人カタリバへ転職し、島根県の雲南市で事業立ち上げに従事。 2017年4月より雲南市の「教育魅力化コーディネーター」として、魅力化事業のプロジェクトマネジメントなど幅広く推進中。
【森山 祐介さん】
1990年島根県出雲市生まれ。一般財団法人地域・教育魅力化プラットフォームで活躍中。中央大学卒業後、人事コンサルティング会社にて人材開発・組織開発の支援に従事。教育を通じて地元島根に貢献したいという思いから、2016年に、認定NPO法人カタリバで雲南市教育魅力化コーディネーターとしてUターン。教育魅力化事業立上げに従事し、現在は(一財)地域・教育魅力化プラットフォームにて、島根の人づくり・人材還流事業を推進中。
【仁禮 彩香さん】
1997年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部在学中の学生起業家。
中学2年生の時に株式会社GLOPATHを設立し、高校1年生の時に自身の母校である湘南インターナショナルスクールを買収し経営を開始。 2016年に株式会社Hand-C(現TimeLeap)を設立し「自らの人生を切り開く力」を育む様々なプログラム開発/運営。同年にハーバード・ビジネス・レビューが選ぶ未来を作るU-40経営者20人に選出される。現在は小中高校生のための起業家育成プログラムであるTimeLeap Academyを完全オンラインで開講。
【井東 藍さん】
島根県の津和野高校に通う高校生であり、TimeLeap Academyのアカデミー生でもある。地元島根の高校生活と全国の仲間と共に起業を学ぶ毎日との間で、何を感じ考えているのか、何を必要としているのか、等身大の高校生の気持ちをを大人達へと共有。
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等身大の高校生と教育現場をつくる大人
▼仁禮さん
現在、TimeLeap Academyという小中高校生のための起業家育成プログラムを行なっています。
北は北海道から南は沖縄まで、全国各地からお申し込みをいただきました。
開講してみて、一番嬉しいのは「事業を起こす実践の中で、社会というものを知っていくことができた」というアカデミー生の声です。
今回は、等身大で公立高校の教育を受けている藍ちゃんに、島根での高校生活とアカデミーとの関わりの中で何を感じているのかを等身大に伝えてもらえたら嬉しいです。
▼藍さん
現在、島根県の津和野高校に通っていて、島根県から出たことはありません。
なので、アカデミアに入るまでは、同じ境遇の子(地元の友達)としか話をしたことがなくて、TimeLeapで東京や大阪の子と話すことで、自分の価値観や考え方が広がっています。
高校では地域の大人や先生の支えもあり自分が「やりたい!」と思えることを見つけることができて、私生活が豊かになってきたなと感じています。
▼大野さん
島根県は少子高齢化で三重苦が重なっている県です。
もし、そんな島根で三重苦を乗り越えていくことができれば、他の地方も元気にできるんじゃないのかという思いで、今の活動をしています。
現在島根では、少子化が加速し、学級の定員割れが起こっています。
そうすると自動的に先生が減らされることになります。
図書室の司書の先生、物理の先生、倫理の先生…。
そうすると、化学の先生が物理を教えたり、地理の先生が物理を教えたりということが起こってきます。
専門外の内容を教える学校には魅力がなくなってしまい、高校に行かないという人が増えるばかりでなく、家族ごと島根から出ていってしまうという場合もあります。そんな流れに抗うべく始まったのが隠岐島前高校魅力化プロジェクトです。
今では60%が県外からやってくる留学生で北は北海道から南は長崎、果ては海外まで学生が増え、先生も増えて魅力が高まりました。もともと小さい学校は統廃合していきましょうという流れだったが、それに抗ってできたものの一つが隠岐島前高校です。今はその流れが島根本土から日本全国へと広がっていっています。
▼鈴木さん
わたしは島根の真ん中あたりにある雲南市という街でNPO法人カタリバというところで教育魅力化コーディネーターとして働いています。
「日本一チャレンジが生まれる街」というのを合言葉に掲げ、どんな人に投資をしていくのか、雲南市だからこそ学べること、教育のかたちとは何のかというのを振り下げています。
特に、学校教育の垣根を取り、行政と地域と共に「街として何を軸に教育を行うのか」というビジョンを共に育てていくことをしています。
そのために学校現場にも入らせてもらい、こどモタちの探求学習を高める施策をしています。学校の中、教育の中に地域の人たちを巻き込むかたちを模索しています。地域の人に生徒と交流してもらうことで、地域の人が学校の機能の一部となるような動きを促進しています。
▼森山さん
自分の根源にあるのは「色々な世界が広がっていたにも関わらず、なぜ勉強とサッカーしかしてこなかったのか」という後悔です。
その後悔から、今のこども達には「世界を広げるためにたくさんの機会を提供したい」という思いで活動をしています。
実は10年前までは鈴木さんと同じカタリバで働いていました。
カタリバでやっているような取り組みを、町から県へ、県から日本全国へと広めるための仕組みを創りたいと考え、今の職場にいます。体力がない学校が統廃合で切り捨てられるという状態ではなく「地域の魅力を活かした教育」が各地域でできるようにするための方法を模索しています。
教育改革のターゲットは誰?
個人のエリート教育 or マスの公教育?
▼森山さん
普通の子が普通に過ごしていても、チャンスを掴み取れる機会が最大限用意される環境をつくりたいというのが僕の願いです。
ただ、「みんなへ届けたい」という思いでマスに向けて行うと施策としてはどうしても目立たないし成果が見えにくいと感じています。最初は目立つポップアップを創って、アーリーアダプターを巻き込んでいく必要があると感じています。
▼大野さん
どちらも必要だと感じます。
ただ、二項対立ではなく二項動態でできる状態をつくりたいです。
エリート教育 or 公教育ではなく、エリート教育 and 公教育が理想です。
▼鈴木さん
藍ちゃんが津和野(公立高校)にいながらTimeLeap(エリート的教育)に通っている、それが当たり前になったらいいなと感じています。
そもそも3年間で1つの高校に通う必要があるのか?という問いがあります。
1年目は雲南、2年目は東京、3年目は海外、という選択肢ができてもいいのではないでしょうか。
▼藍さん
実際に学校に通って、TimeLeapにも参加した中で、津和野高校での体験もTimeLeapのどちらも大事だと感じます。
津和野高校で学ぶのは学力の基礎でとTimeLeapで学ぶことは起業家としての視点や考え方で、全く内容は異なるけれど、お互いに違う学びから培ったもので、自分の中に何かが繋がった時がとても楽しいし、その教育の違い自体を知ることが楽しいです。
教育改革は制度から変える?
個人から変える?
▼大野さん
元々は個人を変えるアプローチが必要だと感じているけれど、個人だけだと限界があるのが見えてきました。
特に「個人」とした場合でも、思いの数だけフォーカスする人も違うと思うんです。個人といったときに、「生徒、先生、保護者」もあるし、制度といったときに「学校、町、県、国」と分かれているので、どのレイヤーをどんなアプローチで変えていくのかを明確にするのが重要だと感じています。
▼鈴木さん
教育の制度は、本当に壁が厚いんです。カタリバという140人が乗った小舟がどーんと当たったぐらいじゃ、全然変わりません。僕も制度と生徒(個人)をどっちも見ていくことが必要だと思いますが、どちらも見ていくというのは本当に胆力がいります。
▼森山さん
自治体にも高校の中にも制度や決まりがあり、なかなか決められないことが多いんです。そこで、学校現場から県の制度も変えないと高校魅力化も進まないと感じて行政に入りましたが、「じゃぁその制度改革を誰がやるんだ?」という問題が浮上しています。制度の改革と共に、制度の改革ができる人の育成も急務だと気づいたところです。
みなさんが怒りを覚えるシーンは?
▼大野さん
入試制度に怒りがあります。
一律に行うことはとても大切だけれど、離島の状況は逼迫しています。
コロナ禍の隠岐島は、離島のため感染者は0なのですが、人工呼吸器も0なんです。高齢者も多いので、なるべく外から人を入れたくないというのが本音です。なので「オンライン入試をやりましょう」と提案するのですが「前例がないからやめましょう」となってしまいます。
もう少し高校自体に決定権を委ねたり、特区を創ることで、色々な制度や新しい事例が生まれるような環境がほしいです。
▼鈴木さん
今の子供たち、自分より下の世代の人たちが、僕らが創った社会で未来を生きていくということを考えると、「まずい!」と感じているものを誰も変えない、誰もやらないというのは「やばい!」と感じています。
教育ってもっと自由でいいと思うんです。
これからを生きる時代の子供たちは、どうしたってIT機器を駆使して生きていく必要があるのに、校則で「スマホは禁止です」となっているのは、生きる力を奪っているように見えます。
▼藍さん
確かに今の社会ややばいなって感じてしまいます。
今の大人が生きている世界は、自分たちが子供の時に作られた社会や世界だったりすると思うんです。そういうのを受け継いだままにしてしまっているだけで、どうしてその基盤を考えられないんだろうって感じています。
▼大野さん
100年前にできた制度のまま、新しい普通を作ろうとしているのはどうしても矛盾ができてしまいます。
もちろん、古い制度にしても守っていくべきところもありますが、時代の流れ、社会のニーズに沿って動かしていくというのが大切だと感じています。
▼森山さん
自分が子供の頃は、周りに親と先生しかいなくて、それが自分が持つ人生のロールモデルでした。
生き方がこんなにも多様で、機会が限りなく広がっているということに気がついたのは大人になってからでした。生き方の多様性や機会の広がりを知っているか知らないのか、橋渡ししてくれる人がいるのか、いないのかで、人生が180度変わります。
先生と親だけが子育てしていくという世界ではなく、かっこいい大人とたくさん出会える環境を社会の仕組みとして創り上げたいです。
▼鈴木さん
日本の教育については、みんなに同じ原体験があるので、自分の体験をベースに話してしまい「自分の体験こそが正しい!」「自分の感覚こそが正しい!」とお互いに正しさを主張しあってしまっているのが残念だと感じます。
内部で戦い合うのではなくて「どっちが正解かわからないから、どっちもやってみよう!」と同時多発的にやっていかないと教育現場は変わりません。
各々が正しいと思うやり方で、まずは動いてみることが大切だと思います。
そして、選択権のある生徒が、好きな学校/教育のあり方を選んでいく、というのが必要だと思います。
▼森山さん
僕たちも教育に関してたくさん会議をするんですが、その会議の部屋に、当事者である学生が一人もいないんです。なので、もっと当事者である学生に会議室に入ってきてもらい、想いやアイディアをぶつけられる環境が必要だと改めて思いました。
夢いを描き今日から行動しよう!
今回の裏テーマである「MOVE or DIE」スペシャルゲストのお三方にインスパイヤされ、今回は参加者のみなさんにも「自分の理想とする世界」を思い描き、WHY(なぜそれを実現したいの?)HOW(どうやって実現するの?)WHAT(明日から何をするの?)を深掘りしていただきました。
その一部をご紹介します。
【藍さん】
【やんやんさん】
【いいざわさん】
改革は地道な合意形成から
コンビニや郵便局を立てるように、島根県で成功した取り組みをそのまま他の地域で試せば、素敵な学校教育がうまれる訳ではありません。隠岐島高校も全国的に有名になり、学生が集まってくるようになるまで10年、雲南市の改革も5年以上かかっています。彼らも最初は小さな合意形成、小さな取り組みから始まっています。どこの学校でも、学校関係者をはじめ、地域、や町、県などの行政と共に地域の魅力や特徴を掘り起こすことが必要です。その土地で必要とする教育が何なのか、どんな町にするために学校教育があるのか、大きなビジョンをもとに、行動のための合意形成を丁寧におこなうことで、地域に根ざした日本にひとつしかない魅力的な学校ができていくのです。
公教育とエリート教育の距離の縮まり
公教育と真反対と思われているエリート教育。教育内容も、ターゲットにしている子供達も、アプローチ方法も異なりますが、本質的な部分を掘り起こせば、同じ思想の上に成り立っているのを感じます。
公教育の改善も、エリート教育の広がりも一長一短があり、どちらが良い、どちらが悪いと決めつけることはできません。こどもたち一人ひとりの「正解」はその子自身が選択し判断をするものです。その選択肢を少しでも広げるために「自分がほしい!」「これはいい!」と思ったことを現実にするために、大人たちが行動していくことが求められています。
こどもたちの声を聞かない教育改革
「教育をよくしよう」という声のもとに学校関係者をはじめ地域や行政が集まり議論を重ねています。でも、当事者であるこどもたちが、いま何を感じ、何を求めているのか、耳を傾けたり、会議に招いたことがある学校がいくつあるでしょうか。現代社会でさえ何か商品を作るときには消費者の声を聞くのが当たり前の世の中ですが、教育に関しては当事者を置き去りにしています。
ユニセフから出ている子ども達の幸福度ランキングを見ると、精神的な幸福度は38ヶ国中37位と最低レベルとなっています。多くの時間を学校で過ごすことを考えると、教育のあり方がランキングへと影響していることは明白です。大人たちの理想や想いを押し付けるだけでなく、こどもたち自身が「どんな大人になりたいのか」「どんな未来を描きたいのか」「大人達にどんな社会を創ってほしいのか」を聞き、共に考え創造していくことが急務です。
人事が求める教育のあり方
日本企業の人事が採用戦略として掲げてきたのは終身雇用です。いかに同じ会社で長く働き続けてもらえるかということに重点を置いています。そのため、反発をせず、会社の企業風土に馴染む人、言われたことを従順に行動する人を基準に採用が進められていました。裏を返せば、自分の考えがある人や、ユニークな発想をする人は嫌煙されてきたのです。
そんな企業の人事の観点からすると、「規律を守る」「言われたことをきちん行う」というのが学校側に要求する人材です。特に高校になれば、就職率が学校側の成果基準と直結するため、会社側の欲する人材を育ているということで、方向性が決まっていました。
しかし時代が変わり、社会から必要とされているのは、誰に命令されるでもなくユニークな発想から新しいモノやコトを創り出せる人材です、企業側も時代の波に押されて、ユニークな人材を採用しマネジメントをしようと舵をきっています。そのため学校側も自分の頭で考え行動ができる生徒を育てていく必要がでてきています。今は、その転換の過度期です。企業側のニーズと学校側のニーズとを汲み取り、お互いの目線を変えていく必要があります。